2017年2月15日水曜日

[東京 ロイター 15日]コラム:「シムズ理論」批判の落とし穴=嶋津洋樹氏

[東京 ロイター 15日] -

昨年の夏以降、主要国政策担当者の間で「物価水準の財政理論(FTPL:Fiscal Theory of the Price Level)」が注目を集めている。日本におけるブームのきっかけは、内閣官房参与として安倍政権の経済政策を支える浜田宏一・米イエール大学名誉教授が言及したことだろう。

従来、デフレをマネタリーな現象とし、主に金融緩和を通じたデフレ脱却を主張していた浜田氏がFTPLに言及したと報じられたことで、日本国内で一段と注目されるようになったと考えられる。

FTPLは確かに「財政政策が物価水準を決める」理論と説明することができ、従来の「金融緩和を通じたデフレ脱却」という考えとは全く異なった印象を受ける。しかし、実際には金融政策の効果を否定しているわけではない。浜田氏がFTPLに衝撃を受けたとの告白を、金融政策の否定と解釈するのは、必ずしも正確ではないだろう。

それは、米プリンストン大学のシムズ教授が2016年8月に米カンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で行った講演でも確認できる。

浜田氏がFTPLに関心を持つきっかけになったという同講演録で、シムズ氏は「インフレが急速に高まる際も、低いインフレと金利が長期にわたって続く際も、財政政策と金融政策の協調が必要だ」と述べている。

FTPLの批判者たちは、ハイパーインフレをもたらす毒薬、あるいは効果を望めない机上の空論などと一刀両断するが、そもそも金融当局や政府がデフレ脱却やその前提となる景気回復を目指し、さまざまな可能性を議論するのは当然のことだ。

金融政策がゼロ金利の下限に達しているとか、副作用が大きいとかいう主張は、行動することによって生じる責任を回避し、経済の停滞を容認しているのと同じことだろう。そうした姿勢は敗者に美学を見いだす日本人の心を揺さぶることはあっても、経済的な弱者を救う処方箋にはならない。

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